「英語 de フルハウス」の使い方




■フルハウスとの出会い

「フルハウス」は,1987年から1995年にかけてアメリカで放映されたコメディドラマです.過去にNHKで3度も放送されていたので,知っている日本人も多いと思います(私は知りませんでしたが).

何故,「フルハウス」なのか.

それは,「フレンズ」や「フルハウス」でリスニング力が向上した,と書かれていた本を手にしたからです.私はさっそく,両方のファーストシーズンの最初のDVDをレンタルしてみました.しかし・・・

む,無理...(汗)

とにかく,早くて何を言っているのかがわからない.観客は笑っているのに,私はまったく笑えない.こりゃ,魔界だ.私には住めない.無理だ.やっぱり私は,NHKの語学番組レベルなのだ...と落ち込みました.

さらにその後,国際会議へ出かける機会があり,そこで自分の英語がまったく使えないことにショックを受けました.学んできたのは英語のはずなのに,NHKのそれとは,スピードも内容も次元がまるで違うのです.ここもまた,「魔界」でした.

自分は学び方を間違えたのかもしれない...しばらく悩んだ挙句,かれこれ15年にわたって続けてきたNHKの語学番組を「自主退学」する決意をしました.退学した私が向かった先がそう,あの魔物が住む海外ドラマでした.


■フルハウスを好きになる

魔界といっても,頑張れば自分だって住めそうな魔界と,そうでない魔界があるでしょう.DVDを試してみて,2つのドラマの雰囲気は大体わかっていました.そして,かろうじて取り組めそうだったのが「フルハウス」でした.

結果からみれば,この選択は正解だったと思います.私は現在,「フルハウス」をめでたく卒業し(今度は,退学ではない),「フレンズ」に取り組んでいますが,「フレンズ」は海外ドラマ初心者には少しきついと思います.「フレンズ」では,かなりオシャレな言い回しというか,少し考えなければ理解できないような皮肉った表現が好んで使われます.反面,「フルハウス」は子供向けの番組ですから,直接的な言い回しが主となっています.私たちは,感情表現の手段として言葉を発します.どのような感情のとき,どのような表現を使うのか.それが比較的易しいレベルで網羅されているのが「フルハウス」の魅力です.大人が使うような subtle な表現を覚えるのは,初心者にはけがのもとです.

やると決めたらとにかく,続けることです.「フレンズ」を経験した人からすると,「フルハウス」はどこか間の抜けた感じがするに違いありません.何かあってもどうせ最後はハグして仲直りするんでしょ?,といったどこか水戸黄門を観ているようなあの感じです.しかし,その”ゆる〜い”感覚そのものが,「フルハウス」の魅力のひとつなのです.無駄な緊張感がない分,気負いせずにお茶を飲みながら続けようという気持ちになれるというものです.しかし,そうはいいつつも,うっかり八兵衛ならぬジョーイ,掃除オタクのダディー(ダニー),演技力抜群のステファニーといった,独特のユニークキャラにどんどんはまっていくことでしょう.


■海外ドラマで,文法の”お墨付き”を得る

海外ドラマのメリットはいくつかありますが,個人的には,いろいろな言い回しに関するネイティヴからの”お墨付き”を得るという効果が大きかった気がします.

私たちは,学校教育において英文法を習ってきました.しかし,このなかには,日本人にはやや馴染みづらいものがあります.たとえば,everyone という言葉です.これは英文法では単数扱いですから,現在形で話す際には,"Everyone loves it!" などと動詞に "s" をつける必要があります.しかし,日本語の「みんな」は複数扱いなので,「everyone=みんな」と覚えてしまうと,文法上の混乱が生じます.everyone は,あくまで "every + one" なのであって,ネイティヴは "each one" に近い感覚で everyone を使っているのです.このようなニュアンスを共有できていないと,会話の場面ではつい,"Everyone love it!" と出てしまいます.

もちろん,こうしたことは文法書でも学ぶことができます.しかし,これらの本は,学習者用に”作られた(上手に編纂された)”感が否めず,心のどこかに「これは正しい文法を日本人に教えるための本であって,実際のところはネイティヴだって,everyone も複数扱いしているのでは?」などという疑念が残ります(ひょっとしたら私だけかもしれませんが).しかし,海外ドラマの中で何の躊躇もなく子供が "Everyone loves it!" などと喋っているのを目の当たりにすると,さすがにこのルールがネイティヴに共有されていることを認めなくてはならなくなります.文法ルールを直すというよりは,「everyone=みんな」という結びつきを,「everyone=それぞれのメンバーたち」という風に修正する必要があるのです.

同じようなことが,「どうぞ」という言葉についてもいえます."Mind if I smoke?"(タバコを吸ってもいいですか)と聞かれると,日本人は「どうぞ」と言おうとして反射的に "Please." を使ったりします.しかし,please はこちらからお願いするときに使う言葉ですから,これを聞いた相手は「どうぞお願いですから,私のために吸ってください」というニュアンスに受け取ります.この場合は,"Go ahead."(どうぞ),あるいは "I don't mind."(構いません)という風に返さなくてはいけません(私は,自分の好きな映画でこれを学びました).これも,「please=どうぞ」という風に記憶してしまったことによる弊害です.

このようなニュアンスは,文法書からは到底学習できません.自分の感情を瞬間的に伝えるための最小限の表現は何か.それが網羅されているのが海外ドラマであり,そのリスニングは,頭でっかちの日本人が文法を”体感”にまでもっていくための有益なプロセスなのです.


■付加疑問文で,ネイティヴに一歩近づく

突然ですが,下記の空欄にあてはまる言葉がわかりますか?

A) 砂糖を渡してくれませんか? → Pass me the suger, (   )you?

B) ポーカーをして遊びませんか? → Let's play a porker, (   )we?

付加疑問文というやつです.中学校で勉強したと思います.

「砂糖を渡してくださいね」「ポーカーをしましょうね」の「ね」に相当します.日本語では,「ね」を付ければ全部通用しますが,英語の場合は前の文によって形が全く異なってきます.ちなみに,正解は,A が "will (would や won't でも可)",B が "shall" です.shall は,"Shall we dance?" という映画タイトルでも有名になりました.これはややお堅い誘い方で,口語では,"Let's dance, shall we?" の方が一般的かと思います.

付加疑問文は,日本人が苦手な文法形式のひとつだと思います.なぜなら,私たちが英語学習でよく使うフォーマルな文章(教科書,参考書,記事,ニュース等)には,付加疑問文がほとんど登場しないからです.そこで,大方の日本人は,余計な言葉を付け加えてわざわざ恥をかく必要はないだろうと,"Pass me the suger." や "Let's play a porker." などと会話を終えてしまいます.ところが,付加疑問文とは本来,「自分はこう考えるが,あなたはどうか?」といった,相手への気遣いが込められた大事な”付け足し”です.相手への気遣いがないのではなく,相手を気遣うための表現を使えないだけなのだとしたら,とてももったいないことです.

海外在住経験のない私がこの付加疑問文の重要性に気付いたのは,海外ドラマのリスニングを始めてすぐのことでした.それまで私は,ネイティヴだってこんな面倒くさい付加疑問文など,大して使っていないのではないかとたかをくくっていたのです.ところが,海外ドラマを観てびっくり.そこは,付加疑問文のオンパレードだったのです.自己主張の強いといわれる米国ですら,"Pass me the suger." とはあまりに命令口調であって,こんな言葉を連発していたら,そもそも友達を作れないのです.だから,付加疑問文で「私はそんなに命令調(demanding)な人間ではない」というニュアンスを出す必要があったのです.

ところが,多くの日本人にとって,付加疑問文の活用はかなりの難題です.”付加”しようと頑張ると,直前の言葉の時制を考えたりして,会話のペースに全然追いつかなくなってしまうからです.日本語でいえば,「砂糖を渡してください・・(2秒経過)・・ね」と述べるようなものです.「ね」がこんな遅くに来たら相手は,早くしろと急かしているのか(念押し),それとも何か策略があるのか(悪い誘い)と勘ぐることでしょう.付加疑問文は,間髪入れずに付けるからこそ,口調を和らげる効果があるというものです.

したがって,このような会話センスを身に付けようと思ったら,もう丸暗記するしかないでしょう.特に,命令文と依頼文(Let's)は,付加疑問文を付ける方がむしろ一般的ですから,セットで覚えてしまった方がよい.覚えるのが面倒と思ったら・・・そうです,海外ドラマです.先ほども述べたように,ネイティヴは付加疑問文を多用するので,観ているうちに自然に覚えていきます.フルハウスでいえば,ジョーイがジェシーに,"..., would you?, would you?, would you? (お願い!,お願い!,お願い!)"と懇願しているシーンがありました.ここまで繰り返されると,言葉というよりは画像とリズムで記憶に残ります.このようなことも,海外ドラマを観ることのメリットだといえます.


■フルハウスの学び方

学び方は人それぞれだと思いますので,自分で工夫すればよいと思います.私の場合はまず,

(1)字幕なし・音声英語で,どこまで理解できるか試す
(2)日本語字幕・音声英語で,ストーリーを理解する
(3)英語字幕・音声英語で,単語等を確認したり戻ったりしながら英文を理解する
(4)英語字幕・音声英語で,できるだけ止めずに復習

の1セットを一気にやりました.最初の頃はこれだけで2時間半かかっていましたが,やがて,2時間15分,2時間,1時間45分と徐々に短くなっていきました.あとは,別の時間を使ってDVDを6回流して観ます(つまり,同じストーリーを計10回観ます).これも自分なりの工夫として,最初の2回はメガネを付けて英語字幕を見ながら,真ん中の2回はメガネを付けずに英語字幕付き(ぼんやり字幕が見える状態),最後の2回は字幕なしにして,徐々に字幕から”独り立ち”できるようにしました.このやり方は,「フレンズ」でも踏襲しています.

「フルハウス」は全部で192話もありますから,1日1話のペースでも終えるまでに半年以上かかります.私は,8ヵ月でこれを終えましたが,特に急がない方であれば,余裕をもって1週間でDVD1枚(約4話)のペースで進めていけばいいのではないでしょうか.土日で上記の(1)〜(4)のセットを4話分やって,平日にそのDVDを流して観る感じで進めれば,およそ1年(8シーズン×6枚=48週)で終えられます.

「フルハウス」を終えて,リスニング力は確実に上がりました.日常会話程度の内容であれば,ネイティブスピードでもフォローできますし,二か国語ニュース程度のスピードであれば,(わからない単語はありますが)概ね内容は理解できるようになりました.また,お決まりのフレーズを覚えるので,話す上でも瞬発力が向上するばかりか,"Let me see..." などといって自信を持って(?)時間稼ぎができるようになります.人によると思いますが,私の場合は,4シーズン目あたりから,学習のストレスが減ってきました.つまり,上の(3)の作業がだんだんなくなってきます.英語の表現パターンを覚えるんですね.また,耳が出来てくるので,(1)や(2)だけで理解できることも増えてきます.

このページでは,一度「フルハウス」を卒業した私が,「フルハウス」の会話をどう再解釈するか,について綴っていこうと思います.もちろん,素人ですし,私の英語力では解釈に誤りがある部分が多々あると思います.そのようなことを発見した方は,それぞれのシーズン毎に「会議室」を作りましたので,そちらへご投稿ください.

では,「フルハウス」の魔界・・・もとい,世界をどうぞご堪能ください.



追記)その後,同じやり方で「フレンズ」全236話を走破しました(1年以上かかりました).2つの定番ドラマの走破で,字幕なしでもドラマのストーリーは十分に追えるようになり,TOEICも900点を超えました!