私の英語学習記録



■英語学習のきっかけ

ステップアップを目指して,大学を異動しました.

赴任した先は,もちろん日本語での講義が主ではありますが,「海外から学生を受け入れて,英語で教育して学位も出す」コースが併設されたとんでもない場所でした.面接で「英語で講義は出来ますか」と聞かれた時は,「やったことはありませんが,頑張ります」とごまかした覚えがあります(言い訳をいえば,募集要項には英語で講義できることが<望ましい>とだけ書いてあったんです.いやほんと).面接を受けていた頃の私は,TOEIC700点ちょっとくらいでしたから,日常会話すらままならない状態です.英語で講義するなどというのは,まさに清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟が必要なことでした.

困ったことに(?),赴任先の大学は私の想像を超えてグローバル化していました.キャンパスには普通に留学生が歩いているし,聞こえる会話も英語.教員も半分くらいは海外で学位を取ったような人で(私は海外在住どころか,海外出張すら数えるほどしかない),流暢に英語を話していました.これはまずい!と心底思いました.

外国語は,外交的な人間ほど早く身につくといいます.周りをみてもそうだと思います.日本人は間違いを恐れるからいけない.恐れずにどんどん話しかけたらよいなどと,英語ができる人はよくおっしゃいます.私はいつも,"It's easy for you to say so."(君がそういうのは簡単だよね)と思っていました.私は性格上,よく言えば繊細,悪く言えば勇気のない(timid)な人間です.「間違いを恐れてはいけない」と心掛けて恐れがなくなるくらいなら苦労はしない.「男は度胸!」と教壇に立って試行錯誤で授業スキルを身に着ける向こう見ずさ(audacity)も身につけていませんでした.何十年と付き合ってきたこの性格はそう簡単に変わることはないだろう.自分にできるのはコツコツやることしかないと思いました.

そこでまず,私は皮算用で,英語で講義を担当することになるまでの最短期間を2年と見積もりました.着任1年目で英語での講義担当がないことはわかっていました.2年目なら,まだ大目に見てもらえることもあるだろう.しかし,3年目に話が来たらもう断れないかもしれない.2年で何とか最低限度のレベルまではもって行こう,と心に決めました.

2年で何とか英語で講義ができる状態にする・・・それがどの程度はわからないが,最低でもTOEICで900点は必要だろう.とりあえずここを目指して頑張ることにしました.



■手探りの1年目

キリの良い4月1日を,英語学習重点期間のスタート日にしました.

何をしてよいかわからなかったので,とりあえずオンライン英会話の体験レッスンを受けました.実は,英会話については,東京にいた頃に英会話サークルに1年ほど通っていたことがあったので,少しは自信があったんです.ところが・・・恐ろしいほど何も話せない自分に愕然としました.レッスンで,冷汗がだらだらと流れ落ちました.

普段の私なら,ここで学習をやめていたことでしょう.しかし,今回は”待ったなし”の状況.何とか食らいつこうとオンライン英会話をしばらく続けました.そのうち,リスニング力のなさを痛感し,GWに「フルハウス」を使った学習を始めています(「フルハウス」学習についてはこのページで解説しています).事実上の英語学習のスタートは,このGWといえるかもしれません.この時に行ったTOEIC模試の結果は,700点前後でした.もっとも,自分の実力を知るために,時間切れでできなかった問題をわざと”塗り絵”しなかったので,実際にテストを受けたらもう少しスコアはあったかもしれません(10年くらい前に受けたTOEICスコアは740点でした).

「フルハウス」は順調に進めましたが,途中で引越し(新しい大学への赴任)があり,8月から2ヵ月ほどブランクを作りました.着任後に再開し,1月に「フルハウス」を終え,引き続き,これまた定番の「フレンズ」学習を始めました.さらにこの頃から,瞬間英作文や文法学習が併行してスタートし,次第に自分の英語学習法が確立していきました.英語学習が日常ルーチンの中に組み込まれ,ほぼ毎日英語に触れていました.1年目を終えた推定学習時間は,約1200時間でした.

1年目の学習記録



■手応えの2年目

「フルハウス」学習開始からちょうど1年経過したGWに,学習効果を測ろうとTOEIC模試を7回もやりました.結果,平均スコアは800点前後でした.正直,もっと上がっていると期待していたので,これだけやってこれだけなのかと,焦りを覚えました(それが7回もやった理由です).「フルハウス」を終えて,模試でもリスニングセクションでは400点を超えることが多くなりましたが,Part3 や Part4 の長いダイアログは,相変わらず不得手なままでした(これは,文法構成力の不足によるものだと今になって思います.文法学習をもっと早くにスタートすべきでした).

7月に国際会議の座長(および発表),8月に発表を英語でこなしました.2年前に撃沈した時に比べ,英語力が伸びていることを実感しましたが,どこかに根本的な課題があるようにも感じました.そんなこともあって,8月から9月にかけて,アルクの通信講座「挑戦900点 TOEIC攻略プログラム」に取り組みました(本来は6ヵ月のプログラムですが,2ヵ月で終えました).やり終えて特段英語力が付いた実感はありませんでしたが,オンライン英会話の講師からは,「以前(5月頃)に比べ,pause や lapse がなくなった.発音が日本人離れしてきた」と言われるようになりました.

しかし,おそらくこの頃に英語力が付いたかもしれないことは,10月から始めた「瞬間英文法」(ネーミングは筆者・・・笑)のお陰でしょう.これは,私が前年秋ごろから学習してきた文法書「English EX」に収録されている文(約2500センテンス)を電子辞書に入れ,通勤電車の中で「日本語⇒英語」にひたすら翻訳していくというものです.発話力の練習と同時に,文法知識も身に付くというメリットがあります.併行して進めていたオンライン英会話でも,次第にセンテンスを伴って言いたいことが言えるようになってきて,初めて英語力が付いてきた実感がわいてきました.この頃のTOEICスコアは,推定860点.TOEIC860点がAランク入りの目安というのは,あながち間違っていないように思います.

11月下旬に,ほぼ10年ぶりくらいに TOEIC(第195回)を受け,880点(L455,R425)を取りました.本番では,タイムマネジメントを失敗し,リスニング(Part 3と4)の大問3問くらいのトランスリプトが理解できず,またリーディングも最後の3問くらいは時間が足りずに塗り絵してしまったので,結果を知った時はかなり嬉しかったです.これだけ調子が悪くて880点だったのだから,上手くいけば900点獲れるのではないかと,目標達成に弾みがつきました.

2月からアルクの通信講座を再学習し,3月には留学生との英語を使った仕事を引き受けました(かなりプレッシャーだったのですが,「2年で講義を」と自分に約束したではないかと自分に言い聞かせました.結果として途中でメンバーから外されることもなく(笑),自信につながりました).「フレンズ」も年度内に終わり,2周目を始めました.2年目を終えた時点で,学習時間の積算は約3000時間になっていました.

2年目の学習記録



■ブラッシュアップの3年目

懸念(?)していた3年目の講義担当については,主担当ではないものの,授業の1コマ(90分)を担当するという形でやってきました.そこで,英語学習重点期間を1年延長し,3年目でとりあえずの完成形を目指すことにしました(せっかく8合目まで来て,もはや引き返す人などいないでしょう).既にこの頃は英語を学ぶのが完全に日常化しており,止めると体調が悪くなりそうな感じになっていました.

4月始めに行った3つのTOEIC模試(TOEIC超リアル模試600問)のスコアはそれぞれ,970,950,940点でした.本当か,これ?…あまりに出来過ぎな気がしたので,この換算スコアは信用しないことにしました.とはいえ,この頃になると,模試でのリスニングはほぼ理解でき,またリーディングも少し時間が余るようになっていました.「瞬間英文法」をやっていても,以前は素通りしていた a と the,単数複数,前置詞の選択が気になるようになってきて,残る課題が”英文理解の精度を上げること”にあることは明白でした.

そこで,TOEIC模試も,それまでの英語力測定のための道具から,英語理解の精度を上げるための道具へと意味合いを変えました.ここで初めて,多くのトーイッカーが勧める「公式問題集を繰り返し解く」ということをやりました(ただ効果があったかどうかは不明です.何度もやると問題を覚えてしまい,回答中に眠気を覚えました).5月にTOEIC(第200回)を受け,900点(L470,R430)を取り,正式に900点ホルダーになりました.正直,テストには手応えがあり950点近くいったと勝手に信じていた(笑)ので,せっかくの900点初達成にも関わらず,スコアを知った時は少し落ち込みました.

そんなわけで,TOEICスコアこそ期待外れでしたが,英語力の方は着実に身に付いたように思います.1年間の進歩を確かめるべく昨年と同じ7月に国際会議に参加しましたが,そこでは外国の参加者に質問したり,話しかけている自分がいました.海外ドラマ学習でコメディを観まくったせいか,休憩時間のカジュアルトークでは笑いも取れるようになってきました.やっぱり 900点ホルダーになるとすごい! 会話がつながるんです!! スピーカーから聞こえる自分の声(研究報告)も,いわゆる日本人特有のカタカナ発音からは卒業してきているように感じました.



■ついに授業を担当.さらに,TOEIC 950点を取得

そして,ついに英語での授業の担当が冬にやってきました.対策はといえば・・・結局,しゃべることを全部書き出しましたよ(苦).900点ホルダーとはいっても,90分もの間,自由に話せるには程遠いです.ちょうど日本語と英語の対応テキストを執筆中だったので,その仕事を兼ねて40枚くらいの資料を作りました(約9000 words).

どうだったか,ですって? まぁ,何とかはなりましたよ.途中で何度か笑いを入れてみたりしたのですが,一応伝わっていたみたいです.でも,留学生の顔を見ながらという理想的な形には,まだまだ遠いことを実感しました.

その後も,復習を中心に学習は続きます.この頃からは,英語表現の正確性にも焦点をあて,伊藤和夫氏「基本英文700選」の瞬間英作文(これはきつかった)やジングルズの本で発音の改善にも取り組みました.そのせいかどうかはわかりませんが,この頃になってようやく,"L"と"R" の区分がはっきりわかってきたように思います(言い換えると,この区分ができなくても TOEIC900点は取れます).TOEICの形式が数年ぶりに変更になるということで,旧形式問題集のお別れも兼ねて,英語学習開始から丸3年目となる3月にTOEICを受けることにしました(第208回).結果,950点(リスニング満点)でした.この頃には,英語に費やした学習時間は,およそ4500時間に達していました.3年でTOEIC950点取得ということで,努力はそこそこ形になったみたいです.「英語で講義をする」という目標を自由にこなすにはまだまだ道半ではありますが,英語で研究成果を報告するのが苦ではなくなってきましたし,今後はこの大きな投資を回収できるような仕事を目指したいと思います.

3年目の学習記録



■やってきたこと

各年に貼ってあるリンク(PDF)に,やってきたこと,使用した時間の概算(積算)やTOEICスコア(模試による換算点を含む)を時系列で示してあります.上の解説にはあまり触れていませんが,私の英語学習の核は,海外ドラマのリスニング学習にあり,半分以上の時間を使っています.海外ドラマを核にしたのは,私の最終目標が高いTOEICスコアを取ることにはなかったからです.また,リスニング学習といっても,大抵はソファーで寝転びながら聴いている(笑)ので,TOEICの高スコア達成に向けた対策本や問題集を解きまくっている方に比べると,私のスコアの伸びは鈍い方だと思います.ここまで,成功事例を期待しながら読んできた方,ごめんなさい.

とはいっても私は,「3ヵ月でTOEIC900を獲った」という人の勧める勉強法を試してみようとは思いませんでした.きっと退屈すぎて私には合わなかったでしょうし,最短経路を通った分,私が必要とする英語力までは身につかないのではないかとも思ったからです.奇跡的な事例はたまたま条件が整ったから生じたものであって,そこに真実はないと考えるのが,科学者がもつべき態度でしょう(余談ですが,第二言語習得論という研究分野があり,何冊か専門書を読んでみました.それによれば,さまざまな勉強法が効果的であるかは YesでありNoでもある.つまり条件次第ということのようです).英語上級者の99.9%以上は,3ヵ月をはるかに超えて学習しているはずです.私たちはそうした99.9%の普通の事例からもっと学ぶべきことがあるはずです(本サイトもそれを意図して,私自身の拙い事例をご紹介しています).

英語学習に誰にでもあてはまる秘訣があるとすれば,それは・・・時間をかけること.これしかないでしょう.私自身,最初の2年間は正月休みやGWを含め,使える休日はすべて英語学習にあてていました.逆にいえば,多少遠回りであっても,モチベーションを維持できる自分なりの勉強法を確立することの方が大事です.上のリンクをみてもらうとわかると思いますが,私が自分の学習スタイルを確立し,英語学習にのめり込んでいたのは,1年目の終わりから3年目にかけてです.これから英語学習を始める方も,自分の学習スタイルが形になる(試行錯誤が終わる)まで1年程度はかかると考えて,早めにスタートされた方がよいだろうと思います.何の知識が自分に足りないのかは,始めてみないとわからないものです.逆に,始めれば自ずとわかるだろうと思います.



■TOEIC950点に達してみて(←いつかこういうのを書いてみたかった)

上で解説したように,TOEIC900点に達するまでの間は,1年で100点近くのペースで地道に伸びていたようです(さすがに900点を超えてからは伸びが鈍りました).幸いなことに,「TOEIC***点の壁」なるものは,私は経験しませんでした.これは一見遠回りのようにみえた膨大なドラマリスニングや瞬間英作文によって培った構文理解力が,ボディーブローのように効いてきたお蔭ではないかと分析しています.

特殊な才能がない限り,TOEIC900点台に到達するには数千時間を使う覚悟が必要だということもわかりました.40代後半の頭でもここまで来れるのですから,英語でつまづくほとんどの人は,モチベーションが続かずに終わっているだけだと思います.私の場合は,「TOEIC900点など,当たり前」という環境の中に自分をおいたことが,最大のモチベーション要因でした.何を頑張るかは重要ですが,「どこで頑張るか」もとても大事だと感じます.このような環境をもっていない人は,英会話サークルだったり,英会話カフェだったり,「今の自分の英語では,全く歯が立たない」という苦い環境に自分を置くのも良いと思います.どうしたって,水は低きに流れていきますから.

英語学習を始めた頃,TOEIC950点は夢にまで見ていたスコアですが,実際のところは・・・まだまだですねぇ.ま,ネイティヴと会って,汗はかかなくなったかな(お).ここまできたら,頂点からの景色を見てみたいものですね.「ディベートができる英語力」を目指して,まずは英検1級にチャレンジしてみようと思います.

最後に,こんな苦労をしてまで,英語を学ぶことに果たして意味があったかについて所見を述べたいと思います.私の場合,もともと英語を必要とする仕事ですし,もはやこれ以上逃げ切ることはできないと考えて,英語学習に取り組み始めました.何とかそれなりの成果が出たのでよしとしたいところですが,正直なところ,たかだか仕事の”道具”でしかない英語に,4500時間も投資したことについては,「避けられるのであれば,避けたかった」というのが本音です.政府が目標とする年間労働時間が1800時間であることをふまえれば,4500時間の学習とは2年以上のタダ働きに相当します.この時間を研究に使っていれば,仕事の成果は確実に出ていたはずです.

「人生の2年を英語で失う」のだとすれば,やはり何としても元は取らなければなりません.その意味で,英語学習が趣味などでない限り,中途半端な学習が一番損な結果に終わります.反面,そこさえ乗り超えれば人生の可能性が大きく拡がるわけです.その線引きラインはずばり・・・TOEIC900点だと思います.不思議なもので,英語嫌いだった私でも,TOEIC900点を超えてくると「ここまで投資したのだから,英語をもっと仕事で使ってやろう」と気持ちになり,そうした仕事を受ける機会も増えてきました.まったく具体的ではありませんが,海外で仕事をすることも視野に入ってきます.私もまだまだ学習を続けています(また更新します).「英語は仕事のパートナー」と言える日が来るまで,お互い頑張ろうではないですか.